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2025年05月09日
アートとクラフトが息づく町めぐり:山陰の創造力を訪ねて

神話と豊かな自然に彩られた山陰地方。

この地はまた、古より受け継がれる伝統工芸の精緻な技と、現代に花開く新しいアートの息吹が交差する、創造性に満ちた地域でもあります。
手仕事の温もり、独創的な発想に触れる旅は、きっとあなたの心に新たな発見をもたらすでしょう。

今回は、そんな山陰の多様な「アートとクラフト」の世界を巡る、魅力的なスポットをご紹介します。

 

1. 赤褐色の風格、石州瓦が織りなす歴史的景観 (島根県西部)

まずご紹介するのは、島根県西部、特に江津市や浜田市などで見られる、独特の赤褐色が美しい「石州瓦(せきしゅうがわら)」です。

高温で焼き締められることで生まれるこの瓦は、日本三大瓦の一つにも数えられ、その並外れた耐久性、特に厳しい寒さや日本海からの塩害に対する強さで知られています。

石州瓦で葺かれた家々が連なる町並みは、統一感のある落ち着いた赤褐色のグラデーションを描き出し、訪れる者をどこか懐かしい、穏やかな気持ちにさせてくれます。
晴れた日には陽光を受けて力強く輝き、雨に濡れるとしっとりとした深い色合いを見せるその表情の変化も魅力です。
これらの町を散策すれば、時折、漆喰で作られた「鏝絵(こてえ)」という美しい壁面装飾に出会うことも。
龍や鳳凰、七福神といった縁起の良いモチーフが、職人の高い技術と遊び心によって生き生きと表現されており、まさに壁面の芸術品です。

石州の地では、この伝統的な瓦作りの技が今も大切に受け継がれています。
その歴史や製法に触れられる資料館もあり、山陰の厳しい自然環境が生んだ「用の美」と、それを支える職人たちの誇りを深く感じ取ることができます。

 

2. 手仕事の温もりを暮らしに~山陰の多彩な窯元 (島根県東部)

島根県東部には、日々の暮らしに寄り添う、温もりある焼き物を生み出す個性豊かな窯元が点在しています。

 

出雲の民藝・出西窯(しゅっさいがま)の精神 

出雲市にある「出西窯」は、昭和22年(1947年)に柳宗悦の民藝思想に共鳴した若者たちが、「用に即した美しさ」を追求し、無銘の実用食器を作ることを目指して開窯しました。

地元産の土と釉薬を用い、シンプルながらも飽きのこないデザイン、そして何よりも使いやすさを第一に考えた器作りを続けています。
特に「出西ブルー」と称される深く美しい瑠璃色の釉薬は、多くの人々を魅了し、国内外で高い評価を得ています。

工房や登り窯の見学、併設された展示・販売スペースでの作品との出会いは、手仕事の温もりと民藝の精神を肌で感じる貴重な体験となるでしょう。

この他にも、温泉津温泉街にある「温泉津焼(ゆのつやき)」など、山陰には訪れるべき魅力的な窯元が数多く存在します。

 

3. 妖怪たちが誘う、異次元のエンターテイメント (鳥取県境港市)

山陰の創造性は、伝統工芸だけにとどまりません。

鳥取県境港市は、世界的に有名な漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の作者、水木しげる先生の故郷です。
この町は、先生の豊かな想像力から生まれた「妖怪」たちと共に生きる、ユニークな観光地として生まれ変わりました。

JR境港駅から続く約800メートルの「水木しげるロード」には、2024年時点で177体もの妖怪ブロンズ像が設置されており、鬼太郎やねずみ男、目玉おやじといったお馴染みのキャラクターから、少しマニアックな妖怪まで、多種多様な姿で訪れる人々をお出迎え。

それぞれの像には解説があり、水木先生の描く、どこかユーモラスで人間味あふれる妖怪たちの世界観にどっぷりと浸ることができます。

通りには、妖怪をテーマにしたグッズショップ、飲食店、パン屋さんなどが軒を連ね、郵便ポストや街灯、公衆電話までもが妖怪仕様という徹底ぶり。
町全体が、水木先生の創造力と地元の人々の愛情によって作り上げられた、壮大なアート空間となっています。
「水木しげる記念館」では、先生の貴重な原画や資料を通じて、その生涯と作品世界の奥深さに触れることができます。

 

山陰の創造性に触れる旅、そして暮らしの中へ

赤褐色の瓦屋根が続く歴史的な町並み、土の温もりと職人の技が光る焼き物、そして妖怪たちが息づくファンタジックな世界。
山陰地方には、このように多彩なアートとクラフトが、それぞれの土地の歴史や風土と深く結びつきながら、今もなお活発に息づいています。

これらの創造的な取り組みは、地域の文化を豊かにし、私たちに新たな発見と感動を与えてくれます。
その背景には、伝統を守り伝える職人たちの揺るぎない情熱、そして地域を愛し、未来へと繋げようとする人々の想いが込められています。